一棟の道筋

世界の大勢は住宅ローンの支払い金利を全額所得控除する方式だが、日本もこれ一本に徹すればいい、それで十分である。
だが実際には現行の住宅ローン減税や住宅資金贈与の拡充などに加え、このローン利子控除も「導入すべし」という声が根強く存在している。
そこまで持ち家に減税策を講ずる意図は、もはや言うまでもないだろう。
景気対策になると信じているからだが、実際には、持ち家世帯より賃貸世帯の方が生涯の消費支出が四〇〇〇万円も多いという試算もあるのだ。
何よりマイホームを購入し、住宅ローンを抱えてしまったことで、消費を抑制せざるを得ない持ち家世帯の姿が、各種の統計で明らかになりつつある。
いまや地価の大暴落で、借金の担保割れを起こしている家はたくさんある。
それは不良資産と借金を抱えてのた打ち回っているゼネコンみたいなものだ。
これでは生活を切り詰めて「子供は一人で十分。
二人はいらない」とか「外食や旅行は手控える」という家庭が増えるのも当然である。
加入している生命保険の見直しをする家庭が増えているが、それも家を守るために保険料という月々の固定費を削減したいがために他ならない。
年保業界はいまや解約の嵐で、次はどこが潰れるのかと戦々恐々の状況にある。
持ち家を煽ってマイホームを買わせた結果、生保不安まで引き起こしているのである、U揚水の如く、税金や財投資金を投入してマイホーム購入を促し、景気浮揚を狙ったが、逆に個人消費を冷やし、不況を深刻化させる、皮肉で悲惨な結果を招いているのだ。
であれば、持ち家世帯だけ税別優遇の恩恵にあずかるのはどう考えても道理に合わない。
それどころか賃貸派の人から見れば、一方的に持ち家派の人ばかりが、税金や財投資金をじゃぶじゃぶと注ぎ込まれ、それで景気浮揚につながるならまだしも、逆に景気の足を引っ張っているとなれば、冗談じゃないという気分にもなろうというものだ。
とんだとばっちりもいいところだ。
賃貸世帯にも家賃補助など何らかの形で税の還流がなされなければ、著しく公平を欠くだろう。
こうした視点で政策の変更がなされない限り、この国の景気も社会もよくならないのではないか。
公庫の調べによると、約四人に一人が住み替えを考えている。
これは先ほども紹介した、一九九七〜九九年に公庫融資を申し込んだ人のうち、二〇〇〇年六月現在で返済中の二万五〇〇〇件を任意抽出して行ったアンケート結果である。
この四人に一人が住み替え希望というのはバブル以前の購入者の話ではない。
地価の下落が加速し、「これからは買い替えの難しい時代。
永住するつもりで購入を」とさんざん言われるようになってずいぶんたった九〇年代終盤(九七〜九九年)の購入者の声である。
これだけでも相当の驚きだが、これをマンション購入者に限ってみると、なんと五三・三%の人が「住み替えを考えている」と回答している。
住み替える理由で一番多いのは、「時期を見てよりよい住宅に住み替える」(四一・七%)、これに次ぐのが「家族構成の変化」(三四・七%)である。
「時期を見て」というのは「相場が回復したら」という意味だろうし、家族構成の変化というのは、子供ができたとか増えたとか、あるいは老親を引き取って面倒を見ることになったとか、そういうことだろう。
三友システム不動産金融研究所の調査(二〇〇一年)によると、都内に住む約八割が「地価はもっと下がるべき」と答えている。
内訳は賃貸居住者で九七%、持ち家の人で六六%。
「固定資産税や相続税などの税負担が軽くなる」「不動産が購入しやすくなる」などの理山が多かった。
人半の人が地価はまだ高いと考えていることがわかる。
その」方で二一%の人が「所有不動産の資産価値が高まるから」と地価の値上がりを望んでいる。
地価下落を当然と受け止める人が人勢を占める一方で、値上がりを望んでいる人が五人に一人いる。
「時期を見て」と言っているのは、まさにこの人たちなのだろう。
どのような思惑や理由があるにしろ、九〇年代終盤に購入した人で貰い替えに動ける人というのはそうはいないはずだ。
マンションを売却する人は確かにいるが、それは親の家を相続したので手持ちのマンションが不要になったとか、離婚したのでやむを得ず処分したとか、ローン負担が重くなって手放さざるを得なくなったとか、いわゆる単純売却がほとんどだ。
ヘリ相続や離婚にともなう売却にしても、残債を抱えずにすむようなローンが組める富裕層(もしくはその子弟)が中心だろう。
一次取得者がより大きな物件へとステップアップをはかる二次取得の動きは、極めて鈍いのが実情である。
かつては賃貸アパートから2LDKの分譲マンションへと移り住み、値上がりした時点で3LDKの新築マンションや二戸建てに買い替えるのが一般的な形だった。
分譲マンションから分譲マンションへの買い替えは、バブル初期の一九八六年で二割強、バブル最盛期の八九年には三割強に達したが、バブル崩壊後の九〇年代に入ると一気に一割程度に落ち込んだ。
言うまでもない。
地価大暴落で中古価格が釣瓶落としの大崩落を始めたからだ。
自宅の大幅値下がりで、売却しても次の住宅に移る原資を稼げない。
損切りしても多額の住宅ローンが残るため、動くに動けないのだ。
バブル期の高値で買ってしまった人は、それこそ「買えてしまった不幸」と言うしかない。
そしてバブル崩壊後に買った人は、「地価はもう底。
低金利のいまが買い時」の政官民の一大キャンペーンにハメられてしまった。
公示地価は六年連続下落だが、その間、市場からは「地価下落に底打ち感」という言葉が流され続けた。
「そろそろ底値」は「いつも底値」だったわけで、バブル崩壊直後の九〇年代初頭に首都圏で売り出されたマンションは、いまや下落率が七割前後にもなるし、九〇年代終盤の物件でも下落率は二割前後に達している。
ということは九〇年代終盤にマイホームを購入した人は、頭金を三割以上入れて住宅ローンを組んでいないと含み損や残債が発生している吋能性が高い。
現実には頭金を三割以上入れて購入している人はそう多くはないはずだ。
それこそなかには頭金を一銭も入れずに全額借り入れ、一〇〇%ローンという人もいるだろう。
こうなると「時期を見て」などと呆けたことを言っている人はともかく、家族が増えるとか老親の面倒を見ないといけないなど切実な理由があっても、住み替えは事実上不可能だろう。
子供はいらないと思ってもできちゃうことがあるし、老親の面倒は兄夫婦が見てくれると思っていても、その兄夫婦に何かアクシデントでもあれば、老親を引き取って同居しなければならないかもしれない。
「そのつもりはない」「その必要はない」と思っていることは、未来、水劫、一〇〇%確実なことなのか。
このデフレ時代に数千万円のローンを組んでマイホームを買おうというなら、まず何をおいても、「そうそう買い替えはできない」と覚悟すること。
そして買い替えが姓しい以上は、「そう簡単に状況の変化には対応できない」ということを十分に認識しておく必要がある。
家族構成の変化も含めて将来的に起こり得るリスクとしては、ざっと以下のようなことが考えられる。

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